>現在保線業務に従事している方
というのには、私は該当しません。「過去に保線業務に従事した」経験をもってお答えします。現役ではないので“アドバイス”としてお聞きください。
私は、保線業務のうち、ツルハシやシャベルを持って行う現場作業から工事管理までを経験しました。
◇ 保線業務が鉄道運行に占める位置について
まず、3番目の質問に対する答えを理解していただくことが必要です。
「保線」とは、文字どおり「線路を保守すること」です。線路の外観は、鉄で できたレールとコンクリート(昔は木だった)でできたマクラギとバラスであっ て、何だか大ざっぱに見えます。しかし、線路はミリ単位の数字で保守されてい るのです。レールとレールの幅(軌間といいます)は狭くても広くても列車が脱 線しますし、カーブでは線路全体を適度にバンク(カントといいます)させてや らなければなりません。
また、線路は列車が走ることによって上下左右に曲がり(波をうち)ますか ら、それが乗り心地と安全に大きな影響を及ぼします。(ムラとかトオリといい ます)他にもポイントとかカーブ毎に手入れしなければならない事項がありま す。そして、それらは皆ミリ単位での補正を必要とします。
つまり、保線作業は列車の安全走行の土台を担っているのです。どんなに高性 能の列車を作っても、土台となる線路が危険な状態であれば安全な運行はできな いのです。そういう意味では、「保線作業は安全運行の礎」ということができる でしょう。
先般、新幹線の運転手が走行中に運転席を離れたという事実が大きく 報道さ れましたが、新幹線は運転手無しでも走行に支障はありません。高速で走る列車 だけに、それだけの安全対策が施されているのです。しかし、その新幹線も傷ん だ線路の上では脱線の危機に曝されるのです。そういう意味ではやりがいのある 仕事であると思います。
◇ 仕事の内容について
保線業務は、線路を保守する仕事ですから現実としては「土木作業」です。悪 くなったマクラギやレールを取り替えたり、線路の波打をとったりという作業 は、大型機械による作業も含めて土木作業そのものです。
現在では、JRや大手私鉄では保線の現場作業を外注化していますから、直轄 が行うのは検査業務と修繕計画の策定、業者への工事発注などになっていると聞 いています。
あと、私たちは基準を超える地震や大雨の際には線路の点検もやっていました が、現在もこれが直轄で行われているかどうかはわかりません。
◇ 仕事上の注意点について
とにかく安全第一だったですね。
安全というのは二つあって、列車の安全運行の確保と作業安全です。
安全運行という点では、「迷ったら安全になる方を選択する」ということで、 当時は鉄則とされていました。
また、作業安全というのは作業員の安全管理です。保線作業は列車と列車の合 間を縫って行いますから、作業員は列車にはねられる危険に曝されるわけです。(列車の音は大きいので、列車が近づくのがわか らないはずはないとお思いでし ょうが、作業中はこれがわからないんですよ。私も死にかけたことが何度かあり ました。)
と、大まかにはこんなところでしょうか? 保線業務は「縁の下の力持ち」的な仕事で、本当に大切な部分ではありますが傍目には美しくは見えないようです。しかし、技術者として誇りを持って仕事をしたいのであればこんないい仕事はないと思います。(私は一身上の都合により職場を去りましたが・・・)
お礼
とても、大切な誇りのもてるお仕事をなさっていたのですね。線路が、ミリ単位で設置されていることなど、まったく知りませんでした。また、実際、保線という仕事に携わっておられたのことで、生の声を聞くことができ、また、こんなに早く、回答していただけると思っていなかったので、非常にうれしく思います。御礼が遅くなってしまいましたが、本当にありがとうございました。