能を見始めて20年ほどになる者です。最初のうちは退屈でしたが、装束の美しさや舞の所作に惹かれました。謡や舞、囃子がわかってきて、自分の好みの役者、流儀、演目などが定まってきてからは、面白いと思える舞台に出会えるようになりました。
きれいな女性がゆったりと舞うような曲が代表的能とされていますが、激しい舞や大人数による戦い、派手な演出など、初心の人でも比較的退屈しない演目もあります。能は初心者には不親切な芸能ですよね。見に行っても若手が始めての曲に挑むのか、ベテランがいつもとは違った演出で舞うのかさっぱりわかりませんし。
ただ、どの芸能にもあてはまると思いますが、最高峰の芸術の裾野には無数の平凡な舞台が存在することは確かです。私も本当に感動できる舞台は年に何度もありません。ものすごく退屈することもあります。でも、素晴らしい芸を持った役者、忘我の世界に誘ってくれるような舞台、終わるのが名残惜しい舞台に出会うこともあるんです。そんな舞台にまためぐり合いたくて、見に行ってしまいます。