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シュトラウスの《アラベラ》について
《ばらの騎士》《サロメ》《ナクソス島のアリアドネ》の3作品が大好きなのですが、《アラベラ》は一度も聴いたことがありません。作品評をお願いいたします。 また、ティーレマン&メトロポリタンのDVDをお持ちの方は、宜しかったら演奏評もお聞かせ下さい。
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Arabellaを一度だけ観た事があります。2002年4月パリのシャトレ。今おすすめのオペラは?っ聞いたら、何人かが「Arabella」と答えたいう評判のオペラで早速駆けつけました。全く予備知識なく観たのですが、素晴らしい出来でした。その印象が強烈で、今ではもう一度みたいオペラ、大好きなオペラになりました。 専門的なことは分からないのですが、以下雑感のみ。 タイトルロールのArabellaはKarita Mattila 。謎の富豪MandrykaはThomas Hampson、 Zdenka はBarbara Bonney という配役。特にKaritaのソプラノには度肝を抜かれました。ハリウッド女優のようなゴージャスな美貌で、歌も只者ではありません。 ホフマンスタールのオリジナル台本は1860年代のウィーンが舞台。没落貴族が負債をかかえ、なんとか美貌の長女の婚姻をうまく運んで窮地を脱する画策をしている。次女のZdenkaは男の子として育てられている。(娘2人というのは社交界では大変なので、一人は男の子に見せかけているという親の身勝手さもすごい!)妹は華やかな姉の取り巻きの一人Mateoに恋をしている。姉に代わり手紙を彼に出すが、その内容は彼女の恋心をつづったもの。彼を慰めながらも内心は恋しい気持ちに悩んでいる。そこに謎の人物Mandrykaが登場。これが実は大富豪で・・・二人の恋が交錯しながらも最後はそれぞれの恋人とハッピーエンドという展開。没落貴族一家の悲哀も描いた人情オペレッタです。 私が観た演出は1930年代の設定で、思い切って時代をずらしたことが成功しています。没落貴族の話なんてピンときませんよね。でも登場人物の感情を前面に出し、お金に困った親の窮状を救う娘たちと今に通じる恋模様を描き、現代の観客も感情移入がしやすくなったという効果があったと思います。 シュトラウスといえば、「バラの騎士」「エレクトラ」「サロメ」の上演が多いものですが、このArabellaの新演出とスター配役で現代に蘇らせ、この作品の格をあげたといってもいいのではないでしょうか。ほかのArabellaを知らないのですが、長年の勘でなんとなく、これは定番になるぞという予感。嬉しいことです。 ストーリーはホテルで展開します。そのホテルの美術がアールデコのような曲線を多用した金属質のデコール、ウルトラ・モダンの中にレトロ感があるという不思議な舞台装置で、それが固定され最終幕まで同じセット。最近ありがちなシュールな感覚の舞台です。多分これは賛否両論分かれるところでしょうが、好き好きはともかく、舞台転換がないシンプルさゆえに、逆に歌に集中できたところもあります。 ただセットの高低が烈しく、ところどころで声の通りが悪い部分もあり、それがマイナスポイント。オペラ歌手たちは階段を登ったり降りたり、まるでスポーツ選手並みの動き。近頃のオペラ歌手はヴィジュアル面でよくなきゃいけないし敏捷さも要求されるしで大変だなあと思ったりしながら、観ていました。衣装も素晴らしくまるでファッションショー。 さて、歌のほうですが、意外にもというべきか、流石というべきか、その晩はというべきか3者ともが出色の出来。特にこのオペラの特徴なのでしょうが、ソプラノの印象が突出しており、Karita Mattila の艶やかさ、そのカリスマ的な存在感、その声量と表現のテクニックには、大げさに言うと鳥肌が立ちました。 ふわふわした恋多き美女の色気、傲慢さと無邪気さ、したたかさなど、カラフルなニュアンスを存分に表現する力があります。 妹役のBarbara Bonney は経済破綻した親の都合で男装させられるという、けなげな役なのですが、これが彼女の明るい声とボーイッシュな個性にぴったり。色っぽくてパワフルで女王様タイプのKarita Mattila と良い対照をなしています。二人の歌の相性もぴったり。 Thomas Hampson は富豪の役、彼のプレゼンスの良さには脱帽します。一幕で謎の人物として登場したときのかっこよさ。シュトラウスでバリトンというのは珍しいような気がしますが、軽妙ながら丁寧に歌って、人物像を浮き彫りにし、彼のポテンシャルの高さを痛感させられました。Karita Mattila との2重唱でも彼女のパワーにも負けてなくて美しさに酔いました。 途中で舞踏会のダンスシーンがあるのですが、それが30年代の退廃的な雰囲気をかもし出してはいるものの、他とのバランスが悪かったような気もします。ちょっと辛口に言えば、あまりに軽くてミュージカルを見ているような感じもありましたが・・ 最後はKarita Mattila が滑り台よろしく廊下を滑って降りて大団円で最後のアリア、これには観客も唖然、かなりの失笑を買っていました。私もつい笑ってしまいました。折角美しい歌声でいい気分だったのに、最後はちょっと残念かな。 総合点ではオペラのレヴェルとしては近年にない出来で楽しい舞台でした。Karita Mattila は前の舞台を風邪でキャンセルしたということで、まだ本調子ではないというアナウンスがありましたが、それでもこの出来で本当に驚きました。 シュトラウスといえば、どうしてもバラの騎士のイメージが強く、その鋭い人間考察と甘美な音楽に心酔するばかりですが、このArabellaはホフマンスタールとのコンビとはいえ、全く別の顔を持った作品です。このストーリーだと、シュトラウスの音楽とこのレヴェルの高い粒ぞろいの歌手たちがなければ、バランスを崩す作品かも知れません。今、思い返してみると、私が観たのは荒削りで、未完成でアンバランスな所が奇妙な魅力になっていたのかもしれません。 下に私が観た舞台のURLを貼っておきます。舞台はこんな感じです。2005年5月にまたシャトレで再演するようですが、もっと進化していそうですね。 去年秋10月にはバスティーユでKarita Mattila の「サロメ」を観たのですが、これも彼女の魔力(魅力)?全開で期待通りの出来でした。ヌードのシーンにはびっくり。ちょっとやりすぎかも。流石に彼女の歌は益々円熟して、シュトラウスのサロメやアラベラなら彼女というのが定着しそうな勢いでした。 http://www.arte-tv.com/fr/art-musique/opera/Arabella/368004.html
お礼
ご丁寧な回答を有難うございました。 coupdemainさんの御覧になったメンバーによる再演が5~6月にロイヤル・オペラであり、演出以外は大好評だった様ですね。 05年のシャトレ座の再演をぜひ観たいものですが、パリじゃあねえ~。 マッティラとボニーが衰えないうちに東京でもやってくれないかなあ。 但し、ドホナーニがいくら名手でも日本のオケだったら、シュトラウスの、あの豊潤(und芳醇)なハーモニーが醸し出せるものかどうか、ちょいと疑問ですけれど。