エンジンという機械の本質を考えてみてください。エンジンとは燃料を燃やすなどして得られた熱エネルギーを回転などの運動エネルギーに変換する装置です。熱効率とは、燃焼などによって得られる熱エネルギーのうちのどれだけの割合が運動エネルギーに変換できたかということをあらわす数値ですので、同じ熱量の熱源(同じ量の燃料と置き換えても凡そ正しいでしょう)であるという仮定があるのであれば、熱効率の高いエンジンほど高い出力を得ることができます。
さて、実際に熱効率の高いエンジンとはどのような物であるかを、もっとも一般的な4ストロークサイクルの内燃エンジン(自動車やバイクのエンジンのようにピストンを使うエンジン)で考えて見ましょう。まず、エンジンのメカニカル部分の摩擦損失ができるだけ少ないことが好ましいことは間単に理解できるかと思います。次に圧縮比ができる限り高い(大きな圧縮比を持つエンジンでは圧縮の際に使われるエネルギーも大きくなりますが、燃焼による圧力の上昇も大きくなります。外部からの力でピストンを押し上げて圧縮する時に消費されてしまう力と、燃焼後にピストンをが下がるときに発生する力の比は圧縮比が大きくなるほどその差が大きくなり、有利になります)こと、吸入や排気に要する損失(このような動作の時のエンジンはポンプと同じでエネルギーを消費してしまいます。これをポンピングロスといいます。)ができるだけ少ないこと、燃焼による熱エネルギーをできるだけ有効に使うため冷却による熱の逃げができるだけ少ないこと、燃焼で生じたガスの温度と排気ガスの温度の差ができるだけ大きいことなどですが、これらをすべて満たすエンジンは設計不可能です。まず圧縮比についてはガソリンエンジンでは基本的にある程度以上に圧縮比をあげる事は不可能(圧縮による温度上昇で、本来の点火時期以前に自己着火してしまい正常な運転ができません)ですし、ディーゼルでもむやみに圧縮比をあげることは、その燃焼時の圧力に耐えるためにピストンやコンロッド、クランクシャフトなどを非常に丈夫に作る必要が出てきます。こうなると当然これらの部品の重量が大きくなりますが、重量が大きくなるとピストンが上と下でいったん停止してから逆方向に運動するエンジンではこれらに非常に大きな力が掛かり、さらに強く作らなくてはならなくなるという矛盾が生じます。ポンピングロスを少なくするには吸気や排気の際のバルブの面積をできるだけ大きくとり吸気や排気の時間をできるだけ長く取りゆっくりと行う必要がありますが、給排気の面積を増やすことはマルチバルブ化によって可能ですが、これはほとんどの場合摩擦損失の増加を招きます。また給排気に長い時間を当てるということは回転数を下げロングストローク化することで可能ですが、摩擦損失はやはり増えますし、トルクはともかく馬力に関しては回転数を下げると確実に下がります。外部への熱の逃げを抑えるには燃焼室の表面積をできる限り小さくすることや、耐熱性の高い材料を使用することで可能ですが、やはりこれにも限度があります。エンジン内部の燃焼ガスの温度は2000℃を超えるため、冷却を行わないとエンジンが溶けてしまいます。燃焼ガスの温度と排気ガスの温度にできるだけ大きな差を持たせるには燃焼から排気までの時間を長く取り尚且つ外部への熱の逃げを抑える必要がありこれもまた無理な話です。
そのほかにも燃焼によって混合気自体の熱解離による熱損失などもあり高い熱効率を持った内燃機関を作ることは非常に難しいのです。
現在の内燃機関(エンジン内部で燃焼を行うエンジン)でもっとも熱効率の高いものは船舶やヘリコプター、発電用などに用いられるガスタービン(ターボシャフトエンジン)や超大型タンカーや発電用に使用される2ストロークサイクルのディーゼルエンジンでしょう。ただしこれらのエンジンは一定の回転数で使用されることが前提条件で自動車のように始終回転数が変化する用途にはまったく不向きです。