内科医です。
我々が、患者さんに内視鏡を勧め、消化器内視鏡医に胃カメラを依頼することはよくあることです。そして、そのレポートを確認して、その後の方針を決めます。
そのレポートに「慢性胃炎」(表層性胃炎は、さらにその初期段階)と書かれていると、ホッとします。なぜなら、我々の業界では、「慢性胃炎」=「問題なし」の合言葉だからです。さらに、ほぼ全ての「異常なし患者」には、「慢性胃炎」と記載されます。
では、なぜ、レポートに「異常なし」と書かないのか。それには、医学的理由と社会的理由の2つがあるからです。
1)医学的理由:通常の成人に胃カメラを行い、その胃の表面が、「生まれたての赤ん坊のように、まっさらで綺麗な粘膜をしていることはまずない」からです。〇十年、毎日毎日いろいろな食物が通過し、胃酸と混合され、腸に送り込む、という作業を、胃は絶えず行っています。それでいて、赤ちゃんのようにまっさらでいられるはずがありません。胃だって、年相応に老化します。多少の赤みの出る部分だってあるでしょう。皺が強く出る部分もあるでしょう。だからといって、その変化が即、胃癌、というわけではありません。
よって、「年相応」「胃癌のような悪性所見なし」→診断名は「慢性胃炎」となるのです。
(もし皮膚に、細かい皺やシミ・ソバカスがあっても、即「皮膚癌だー」ってならないのと同じです。だからといって、子供の頃のような、もちもちたまご肌じゃあないと思います。どちらも異常じゃありません。)
2)社会的理由:なぜ、異常なしと書かないか。
確かに、そう書いた方が分かり易いかも知れませんが、「異常なし」は、「100%の絶対安全安心を文書で保証する」といった印象を与えます。しかし、この人間の世の中に100%はない、というのが我々の常識です。(でも、世の中の人は、それを求めます。)
癌細胞は、たった1つのできそこない細胞から始まり、それが2個・4個・・・という風に増殖しますが、検査後からそれが始まることも、無いわけではありません。何千人、何万人と胃カメラをしていくと、そうなる人も出るでしょう。
「あの時、異常なしといったじゃないか!!!」とならないために、何も異常がなくても、正直に「慢性胃炎」(=検査時点では癌などの大きな異常なし、だからと言って、赤ちゃんのような胃ではない)と書かざるを得ないのです。
また同様に、インターネットサイトでも、「表層性胃炎」でも、そこから考えられるあらゆる可能性(不安をかきたてること、怖いことも含めて)が書いてあると思います。それも、訴訟を回避するため当然のことです。絶対に、「大丈夫です」「心配しないでOK」とは書かないと思います。
長くなりましたすみません。でも、一般的なこの世の中の生活において、「異常がなくてよかったですね」の言葉は、素直にとった方がいいでしょう。この世の中、交通事故も、大災害も、殺人も確かにあります。だからと言って、その可能性を常におびえながら暮らすわけにはいかないでしょう。「表層性胃炎」は今の段階は全く心配に及びません。心配し過ぎないほうがいいでしょう。
なお、ピロリ菌検査に関してですが、した方がいいでしょう。日本人の2人に1人は感染していて、50代以上になると、昔の日本の衛生状態を反映して7-8割には、見つかってしまいます。検査すれば、おそらく陽性に出てしまうでしょう。除菌すれば、胃癌の予防効果があることが、すでに確認されています。担当医に相談してみてください。「呼気試験」といって、吐く息で検査できるキットが開発されています。
お礼
ど素人の私に、大変わかりやすく、説得力のあるご説明を頂きまして、本当にありがとうございました。 私はちょうど50になりますので、明日にでも病院で検査をお願いしに行きたいと思います。 乳癌検診で乳癌は見つからず、結局自分で乳癌を見つけたので、何か検査をして病名がついただけでも、悪性のものではないか、今は良性でもやがて悪性に変化するのではないかと、心配が尽きません。 全くお会いしたこともない回答者様に、こんなにご親切にしていただいて涙がでてきます。 回答者さまも、どうか末永くお元気で、お仕事頑張って頂きたいです。 どうも有難うございました。心より厚く御礼申し上げます。