はじめまして。拙い知見経験主観ですがよろしくお願いします
>(1) 専門の職人さんが組み上がった時計の精度調整をする
>(2) (1)に加えて、部品の一つ一つを作る精度
も含まれているのか
厳密には(2)と存じます。本来ただ部品を組んだだけと手組で調整しながらでは制度の差は大きいです。
例えば、クロノメーターではないですが、ここでやたらもてはやすSEIKOの機械式でSEIKO-5があります。これ、モノによりけりですが、7S26という機械は特に殆ど全自動近くの組み立て。なので精度の良いのは日差10秒軽く切りますが、出来によっては20秒以上も見受けられます。
ちなみに7S26の取扱説明書上の公称公差は日差±60秒です。
でも時計師の調整で当然ある程度の範囲で改善は可能です。このある程度とは、機械その物のキャパシティ次第と言う事。他の機械式(アンティークなどは特に)等も時計師の技量によって精度も左右します(但し根本的な精度に対する設計レベルで限界はある)
精度の出し方は、本来時計師さんのご回答が一番ですが、基本は最後手で微調整をします。更に部品によっては磨きをかけて精度を上げたり詳細の手作業を加えます。尚精度は単純な機械公差もありますが最後の最後はパーツ関連の組み合わせの歯あたりなどマッチングでの微細な調整。数字だけの判断ではない。タダの組み立て(ザラ組とも言われる)完成品ならばその精度は重要ですけどネ。
この際、貴男が述べられたクロノメーターですが、単純な精度だけでなく、姿勢差(腕に付けた時の縦横斜め等の常用環境)における精度を出すのが一番難しいです。時計師さんの殆どは、この姿勢差で悩まれると存じます(人の腕の状態が常に水平とは限らない、重力の影響があるからですネ)
尚、温度差による偏差でも一番効いてくるのは時を調速し正確に刻むテンプにつく”ひげぜんまい”です。材質が主要ですが、一方で微妙に調整される事も有るので、これも難しいです。
ザラ組で精度が出るならばよいけど、そういかない事もあるので、この点は時計師さんの技量次第です。まして、現行のハイビート(28800振動)に比べロービート(18000~19800振動あたりをメイン)は、構造状パーツの精度(単純な機械公差だけでなく、噛み合わさる部品とのマッチングを考慮)と組立の技量が双方でかかってきます。
>一度OHに出し、下手くそな職人さんに当たってしまえば、クロノメーターなんて書いてあるだけということになるのか否か・・・
貴男の想定される時計の使用年数もあり、一概にとは言えないと思います。
例えば新品で最近購入し、定期的(メーカー推奨)メンテナンスで精度が出ない、すぐ狂うなら、機械自体がハズレ(機械モノ車でもなんでもハズレはありますよネ)か、時計師の技量の問題と思っています。現にメーカー以外でメンテナンスし精度が上がる例幾つも経験してます。ただ、メーカーとして自社メンテナンスの時は、クロノメーター規格内の精度はメーカー設定の保証(ギャランティ)を元に守るはずですし、そうならない時はそれなりの理由があるはず。経年使用で全体的にムーブメントが疲労する等。メーカー外の工房発注は基本自己責任です(でもホント腕の良い方いらっしいます。一人で中古や古い時計を最初~最後までメンテナンスする経験を積まれると技術レベルはUPされるそうです)。
極例ですが1950年代のロレックスも一応クロノメーター規格ですが、ほぼデットストックや長期使用年数でも精度が出なくなる事もザラです。これについては時計師の技量も持ってしても成し得ない困難さが時にあります。この点は個体差や基本設計、経年で人が老いて若い時並みの運動量が出来ないのと一緒と考えてます(そう影響が少ない機械は本当に良質ですが稀。個体差次第も当然ありますが)。また、新品機械で何も変わらないようでも経年変化も当然あるので、過去のまま再現と行かない事もあります。車のレストアと同様・・・。
本当に下手くその場合はまともな時間が全然出ない、作動が不安定とか、暫く使ううちに精度が狂いだす等もあります。この”下手くそ”のレベルを貴方がどこまでのハードルにされているか?どのような時計を対象にするのか?によりけりです。少なくても現行でメンテナンス2~3回程度でクロノメーター精度が最初でていてもその後安定しない、出ないのは、個体差もあるし、時計師さんとしての限界もあるかもしれません。ただ近代ならよりメーカーメンテナンスで精度管理もされてるので、クロノメーター外れた?なんて小さい知見です未経験(GrandSEIKOの9S初期でメーカー公称精度に対しばらつきが出る等は結構聴きましたがそれすら後に改善されている?ようです。ロレックスに至っては10年そこらで外れた何て皆無でした)。
でも時計師さん(自分の知る限りですが)恐ろしいほど愚直で精度と安定性に拘ります。ザラ組での機能確認が終わっても、最終精度(姿勢差込み)の調整には下手すると1カ月ぐらいかける事も有ります(アンティークの古い機械ですけどネ)それで安定して日差10秒だせる・・・これこそ地道な努力で成し得る賜物です。腕だけでない根気と執念のプロとしての意気込みと現状ベストの追及と存じます。
また、精度に拘るのは機械好きとしてとても理解できますが、一方でチャンピオンデータに踊らされる、本来の利用範囲で問題ない精度で確実に無理をしない組立状況で動き続ける事の方がより大事と存じます。よく昔(1960年代)のGrandSEIKOが良いと胸張ってる方もいらっしゃいますが、超精密な公差を持つVFA(月差±60秒以内、36000振動)の精度確保はとても厳しく現代では皆無に近いです(使われているせいもあるけど)。
それより常用使用で精度が極端に落ちない、故障しにくい、安定志向の機械の方が実際の評価は高いです。クロノメータより数秒外れる程度よりもっと大事。チャンピオンデータ主義で経年的な相違等に関しない方には一生理解できないでしょう。常用利用での重要なポイントと存じます。機械式で秒単位の日常を来るのは現実非常に困難ですし、それならクオーツが一番(もしくはスプリングドライブ等)。
時計師さんの技量は多大かつ偉大です。でもそれもこれも時計本体の個体差・コンディションによって限界があるので、一概な下手くそ観念は次の段階にされた方が宜しいと老婆心ですが想う次第です。(確かに偶にホント残念な人もいますけどネ。バラシ方も組み方も下手で、自分の狭量の範囲でしか知見の無い人。)
長文愚答ですがご参考になれれば幸いです m(__)m
補足
marennes様、わたくしのような素人の質問に、本当にご丁寧にお答えくださり、本当にありがとうございます。 実は去年の暮れに1968年に製造された5626-7010キングセイコーを縁あって手にしました。それ以来、アンティークの機械式時計にはまってしまって、深く知りたい欲求を捨てられません。 最後にご丁寧なお答えを拝読させて頂いた上で、まとめとしてご質問させてください。 経年を無視して、(1)60年台後半に製造された日差10秒以内のキングセイコーのクロノメーターと(2)日差30秒以内の同時期に製造されたクロノメーターではないキングセイコーと(3)日差1分以内のここ5年内に作られた逆輸入の1万円以内で購入できるセイコー5をメーカーが推奨する、購入して最初の期間でセイコーのお店にOHに出したとします。一番簡単なOHの、いわゆる安い料金のOHを(1)から(3)にしてもらったとしても、あくまで一般論として、組み上がった後の精度の良い順番は(1)(2)(3)の順になるはずだ、ということで良いのでしょうか? 私の56キングは月から金まで週5日使って週末2日休ませるというスパンで使っていますが、以前のオナーさんが大切に使われていたようで日差5秒以内で収まっていて、すごい精度だなぁとキングセイコーのポテンシャルの高さを実感している次第です。