■外国映画といえばハリウッド
90年以上の歴史を持つ映画雑誌「キネマ旬報」を出版するキネマ旬報社(東京都港区)のデータによると昨年、日本で公開された日本映画と外国映画は合わせて762本にのぼる。うち外国映画は314本で約4割。その8割以上を米ハリウッド映画が占める。
興行収入別ランキングの外国映画トップは、7月に公開が始まったハリウッド映画「ハリー・ポッターと謎のプリンス」。全国844スクリーンで上映され、最終興収は約80億円。第2位には珍しくアジア映画がランクイン。中国を舞台に香港や日本などが製作に加わり、三国志演義前半のクライマックス、赤壁の戦いを描いた「レッドクリフPartII・未来へ最終決戦」の最終興収55億5千万円だった。
一方で東京都内の商業映画館で連続7日以上公開されたアジア映画(中国、韓国での製作を除く)をみると昨年はタイ映画の2本にとどまっている。アフリカ映画は皆無だ。映画評論家で日本映画学校校長を務める佐藤忠男さん(79)は「アメリカの映画はスターがいて、建物や車などをぶっ壊す。作品自体の良しあしとは別に派手な演出が受けている」と語る。
20年以上にわたりアジア諸国製作の映画配給を続けるアジア映画社(神戸市灘区)の担当者は「インドやイラン、台湾の映画を配給したこともあるが、需要と供給の面からテレビ局にほとんど売れなかった。頑張ってはいるがやはりアジア映画に対する関心が低い…」と厳しい表情をのぞかせる。
隣国・韓国でみると、平成12年に日本で公開された映画「シュリ」や15年放送のドラマ「冬のソナタ」など、ここ10年で「韓流ブーム」と呼ばれるブームが起きた。「韓国や中国は日本人にとって自然とわき上がる親近感があり、なじみが深い」(佐藤さん)というように、家族の在り方や食事の際に箸(はし)を使う生活様式、男女間の恋愛スタイルなど、日本との文化的共通点が韓流ブームを後押ししたとされる。
中韓と比べほかのアジア・アフリカ地域は文化的にもなじみが薄いためか、日常的な映画公開について佐藤さんは「興行として難しい」と分析。ある在京民放局の担当者は、アジア地域の映画やドラマ作品の放送について「やったことがないので正直分からないし、世間で話題にならないようではテレビ放送は難しいだろう」と語る。
■テレビ局は文化的使命感を
アジア・アフリカ地域の映画がこれまで日本で全くヒットしなかったわけではない。10年に公開されたインド映画「ムトゥ・踊るマハラジャ」は12万人を動員し、インドの娯楽映画としてNHK教育テレビや民放局でも放送された。
インドは年間1千本以上の製作を誇る映画大国。踊るマハラジャでは、古き良きインド社会を歌と踊りで描いたストーリー展開が好評となり、配給を手がけた映画評論家の江戸木純さんは「昔の日本映画やミュージカル映画のような感覚で楽しんでもらえた。しかし物珍しさからか1本でもう十分となり、ブームが続くことはなかった」と振り返る。
国内市場が小さいほかのアジア・アフリカ諸国では、世界的スターの育成や多額の資金を投じた映画製作はほぼ不可能であり、海外での大ヒットは非常に難しいが、佐藤さんは「マレーシアやベトナムなど、アート系の文化的な映画を探せば素晴らしい作品はたくさんある」と強調する。
韓国映画も、昭和から平成初期にかけては、一部ファンがミニシアターや映画祭で楽しむ程度にとどまっていた。それでも、「いつかは商業映画として公開しよう」という映画関係者の努力が、現在の韓国映画の人気を生み出した背景の一つとして挙げられる。
佐藤さんは「配給する人の熱意があればアジアやアフリカ映画もどんどん公開できる。テレビ局にしても深夜枠を使うなど、文化的使命感を持って放送しなければならない」と訴える。アジア・アフリカ映画が広く鑑賞できるようになるためには、映画文化の意義を業界関係者が見つめ直し、採算にとらわれない普及活動が必要といえる。(岡嶋大城)
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