(長文ご容赦)
まだそんなことを言っている歯医者が居るのですか?
私が聞いたところでは(かなり以前ですが)米国の学者が主張した事から日本であっという間に広がったデタラメです。
しかし、この話には続きがあり、早速米国に研修に行った歯医者の団体の中の一人が歯痛を起こし、実際に体験する事にしました。
すると、一度に治療するからといって全身麻酔をされ、目が醒めた時には全部抜かれていたというオチが付いています。
当時(今でもか?)米国は訴訟大国で、歯科治療後に痛みを訴えただけで訴訟を起こされました。なので米国の一部では歯科治療に抜髄や根管治療などという治療がなく、そのまま詰めるか抜くしかなかったのです。
もちろん米国は合衆国ですから、簡単に言えば49の国の連合体ですので、全国統一というわけでもありません。
では真実はどうか…
古代の骨やミイラでも歯の治療跡があっても、大きな虫歯があっても、歯が残っている骨が山ほどあります。つまり、神経を取ったからといって抜けてしまうなどということはありません。
俗に「歯の神経」と呼ばれているのは、実は神経組織と血管の複合体で、正確には「歯髄(しずい)」と言います。
歯髄を取ってしまったり、感染で歯髄が死んでしまうと、血管も失われますから歯に栄養を送る事が出来なくなります。
しかし、歯肉の上に見えるエナメル質は元々結晶化していて血流は関係ありません。
問題は歯の本体であり、エナメル質の下にある象牙質です。
象牙質の構造はチクワキュウリを想像してください。チクワの部分は無機質で、キュウリ部分が有機質である本体です。
つまり象牙質が死ぬとはチクワキュウリのキュウリだけを食べた状態。外側の無機質(チクワ)は残ります。が、乾燥してしまうために若干脆くなってきます。だから、神経のない歯では最終的に冠を被せるのです。
でも、歯は抜けてはきません。
歯が抜けるという説は「死んでしまった歯を身体が異物として認識するから抜けるのだ」というのが根拠ですが、歯髄が死んでも歯を異物とは認識しません。
この問題で重要なのが「歯の根(歯根=しこん)」です。
歯根の周囲は歯の本体である象牙質の表面を「セメント質」という組織が覆っています。そして、根の周囲の組織への栄養は歯の中からではなく、歯を支えている組織(歯根膜)から受けているのです。
つまり、歯が死んで、歯の内部への栄養補給が失われても、歯根表面への栄養補給が続いていれば、身体は死んだ歯を異物と判断する事はありません。
身体が歯を異物として判断されてしまう一番の原因は感染です。歯根膜への栄養補給が失われてしまうと、身体は活きている歯を異物と判断し、歯は抜けてきます。
従って、生きている歯であっても、歯を支える歯根膜に感染を起こし、栄養補給が絶たれれば、歯は抜けてしまいます。
この場合、歯を支える骨(歯槽骨)が溶けて来るので、症状としては歯槽膿漏と同じになります。
コレが真実です。
では、なぜ歯髄を取った歯(或いは歯髄のない歯)が抜けると言われたのでしょう。
コレには幾つかの原因がありますが、
(1)虫歯や削る事で噛み合せの歯との間に隙間が出来る事。歯は噛み合おうとして隙間を埋めるので、結果的に抜けてきます。
(2)抜髄した後に感染したり、感染した根の細菌が歯根膜に広がって、歯根膜が死んでしまう事。
…の二つが大きな原因です。
このような経緯は大学時代に歯の解剖学を学んでいれば、簡単に見破れる事ですが、実際のところ基礎学問は軽視されてしまうんですよね。国試にもあまり出てきませんし…。
で、米国の学者が言ったというだけで、信じ込んでしまう歯医者が多いのが、この説を世に広めてしまった大きな原因なのです。
まぁ、安易に神経を取っていたことも真実ですが、一生懸命残して、痛みが出たからと訴訟を起こされるのなら、米国みたいに抜歯をするか、歯を残すためにさっさと抜髄するかしか選択肢はなくなります。
神経を取る歯医者が良くないのではなく、神経を残すも抜くも適切な判断ですべきというのが正解です。(コレは抜歯についても同じです)
実際、無理に残して後で痛みを訴える患者さんは山ほど居ますし、残したと思っていても、実際には死んでしまっている場合もかなりの率であります。
それに現在では、冠をかぶせて(詰め物は除く)2年以内の再治療は医院が保証しなければなりません。(「2年以内は自費」はウソだから気をつけて)
その為、無理に神経を残して冠をかぶせた後の痛みを強引に我慢させたり、神経が死んでしまって痛みが引いたのを治ったという歯医者が多くなっています。(このサイトでの質問も増加しています)さらに2年以内に痛みが出そうな場合に抜髄する歯医者や抜歯してしまう歯医者も増えています。
お礼
親切丁寧な解答ありがとうございました。非常に勉強になりました。