クルマの研究で食ってる者ですが・・・人間工学関連の研究は15年ほど前にやった切りなので、経験者とさせて頂きました。
色々御回答が出ていますが、かなり誤解が多い様なので・・・全部まとめて回答してしまいましょう。
※シートを設計する場合、基準となるマンサイズ(いわゆる人間サイズのテンプレートみたいなモノ)が存在します。
日本に限らず世界中の多くの自動車メーカがAM90というマンサイズ(一応北米人種相当の90%を満足するサイズと言われています)をそのまま使うか、或いはメーカによってこれをベースに多少変えてメーカ・オリジナルのマンサイズとし、シート形状やドライビングポジションを決定してます。故に、日本のシートメーカもレカロも基本的に同じモノを基準としています(体の各パーツの長さや体重などが微妙に違うだけです)。テストドライバの体型をテンプレートにしたり、ソレを元にしてドライビングポジションを決める様なことはしません。
※といっても自動車用シートは、実際にクルマを運転しなければ優劣の判断が下せません。
そこで、最終的なセッティングの一環としてテストドライバの意見を取り入れ微調整する事はありますが、彼らは仕事で毎日テストコースやサーキット、一般道等を運転しています。自社製に限らず市販車全般をこれほど長時間乗っている者は他に無く、彼らの意見が特殊なモノだとは言えません。(市販車に対する意見に関しては、F1ドライバよりWRCのラリーストより100倍信頼出来ます。)
※レカロに限らず日本でも、シートはシート専業メーカが作っています。
また、レカロはオリジナルブランドの販売だけで食ってる会社の様に思われがちですが、そんなことはありません。ベンツやワーゲン、オペル、アウディなどの量産車の(普通の)シートも作っています。これはわが国の関東シートさんや川島織物さんなどと同じ状況です。
※国産車に標準採用されているレカロのが輸入モノと違う件ですが・・・量産車標準採用レカロは、レカロ製品版と若干形状が違います(レカロの安いモデルでは調整機能が大幅に省かれているモノもあり、内部構造の点で量産車採用品がレカロ社製造品に対し劣ることはありません。)
これは、レカロ社の製品がアーリア人やアングロサクソン人を標準に作っている為、日本人にはやや大きく硬い(特に座面長=大たい骨の長さが違います)という事があり、日本人に合わせ若干修正を加えている為です。(故に、比較的小柄で体重の軽い方は、レカロ社製より国産車標準採用レカロの方が合うかもしれません。)
国産車標準採用レカロは、イチイチ輸入していては輸送コストが高く付き過ぎるので、国内のシートメーカがノックダウン生産している場合があります。(自分がシートを研究していた頃は、アイテスさんがいすゞ自動車向けに大量にレカロを生産していましたが・・・今はどうでしょう?)
※さて問題の核心です。
レカロがどう違うか?と言う点は、技術的には開発スタッフの層の厚さです。
レカロ社では、実は医学分野の専門技術者(要するに研究医と呼ばれるヒトたち)の開発チームを持っており、かなり緻密な解剖学がシートに取り入れられています(人間工学は工学者が人間について調べる学問ですが、解剖学は医学分野の一ジャンルであり、根本が違います。レカロシートは医学的根拠に基づいてシートが設計されており、モデルによってはドイツ本国では『医療器具』として承認されています)。
これほどの開発陣容を持つシートメーカは、(少なくとも自分がシートの研究をしていた頃は)日本に限らずどの国にもありませんでした。
何故日本にこれほどのシートメーカが無いか?というのは専らシートの開発にレカロほどはおカネをかけられないという事で、要するにコストの問題です。(レカロでも、例えばワーゲンの安いクラスのシートを見ればお判りの様に驚くほど安物のシートを作っていますが、レカロ社自体には既に莫大な量の研究データベースが存在するため、見た目が安物でも自動車用シートとしての機能は日本の安物シートとは全く違います。)
※最後に余談ですが・・・レカロシートが無敵かというと、そうとは言えません。
人間工学的にドライバの運転動作を分析すると、レカロの着座姿勢はツジツマが合っていません。
但しこれはレカロシートがまだ未完成だということを示しているワケでは無く、理想的な運転姿勢と疲れにくい運転姿勢は違う、という事を意味しています。故に運転動作を最重要視する必要があるレーシングカー(市販車改造のモノではなく、イチから設計されているレース専用車)では最初からレカロなどを使う想定はしませんし、また仮にレカロのフルバケットを採用していても、クッションを改造してオリジナルのシッティングポジションとは違うモノとなっています。