補足、ありがとう御座います。それでは『ホイールをハブに留める為のホイールボルトは、どのくらいハブ側に入っていたらOKか?』という御質問として、回答致します。
御質問のケースは、ホイールボルトに限らずボルト締結一般の話となります。ボルトがどのくらいの長さかかっていればよいか?という話はボルト設計の基本なので、当然理論的な限界寸法、つまり何cmネジ込めばOKか?が決定出来ます。
※まず、ホイールボルトの様なボルトの使い方について。
この場合の締結は『フリクション留め』という構造になり、ボルトの曲げやせん断応力に頼った使い方ではありません。
ボルトはネジ込んでいくと、ネジ部は中に潜り込もうとする、しかしボルト自体は6角アタマのところで被締結物表面にぶつかり、結果ボルトは引き伸ばされますが、そうなると当然ボルトは伸ばされまいとモーレツな引張り力を発生します。(これを軸力といいます。)
フリクション留めとなると、このボルトの引張り力によって発生するホイールとハブ間の摩擦力に頼って回転を伝達する事になります。
摩擦で留まっているなどと感覚的には不安に思いますが、世の中にあるボルト締結構造の90%はこのフリクション留めです。
※とすると、御質問の内容は『ボルトを何cm入れたら必要軸力が得られるか?』と言い直すことが出来ます。
※ここでボルトの計算式をダラダラ打っても仕方ないので、現実的な例を挙げましょう。普通に考えると、ナットの高さ分あればボルトの必要軸力は得られることになります。
ホイールボルトはM12なので、M12のナットの高さは・・・JISハンドブックが手元に無いので正確には回答出来ませんが、普通のナットで10~12mm程度の高さだったと思います。
実際には、立て込みネジ(部品に穴を開けメスネジが切ってある状態)では、その部品の材質がナットほど高応力の材料では無い事が多いので、ナット高の1.5倍とか2倍程度の長さの噛合いとします。(勿論、立て込みネジ側の材質が判れば、正確に必要ネジ深さを算出可能です。)
※一方、工学系の論文では、『ネジは最初の3ピッチで必要軸力の80%を出す』という研究報告もあります。ホイールボルトは複数本あり、実はかなり余裕を持った設計となっているので、各ボルトが80%程度の軸力を出せば問題無い、とも言えます。即ち、3ピッチ以上(ホイールボルトのピッチは1.25か1.5なので、掛かる深さは3.75~4.5mm程度)入っていればとりあえずOKと考えられます。(市販車を用いたプロダクションレースでは、トレッドを広げる為にブ厚いスペーサをいれ、実際にホイールボルトに3~4ピッチ程度しかナットがかかっていない状態で使用する連中もいますが、サーキット走行でタイヤがカンタンに脱落する様な事はありません。)
もっともこの場合、上記の材料の話があるので、締付けトルクは再度検討する必要はあるでしょう。
※但し、ネジの緩みに関しては問題アリです。
ネジの緩みに逆らう力は、ネジ頭の座面の摩擦力とネジ部の摩擦力だけで、高校で習うF=μWの式を持ち出すまでもなく、軸力(式の上ではWに相当)が小さいと当然摩擦力Fも小さく、3ピッチだけでは緩み易くなるとは言えそうです。(上記のプロダクションレースの場合も、恐らく緩みが早くなっていると思われます。)
・・・以上より、御質問の回答は、
1)3ピッチ以上入っていればとりあえずOK
2)但し、ネジを潰さない様に締付けトルクを決定する事と、緩みに弱いので頻繁にチェックする必要アリ
・・・となります。
お礼
大変詳細なご回答ありがとうございます。非常に参考になりました。どうもありがとうございました。