■「プラチナバンド」のメリットも
たしかに、一部の携帯電話は24年7月末で使えなくなる。それは主に携帯電話が使用している「800メガヘルツ帯」(810~958メガヘルツ)の周波数を再編成するためだ。それに伴い、再編前の周波数にしか対応していなかった比較的古い機種の携帯電話が利用できなくなる。
使用できなくなるのは、800メガヘルツ帯を使用しているドコモ(NTTドコモ)とau(KDDI)の一部機種だ。ソフトバンクは別の周波数帯を使用しているため今回の再編の影響は受けない。
総務省によると、再編される周波数帯には現在、NTTドコモとKDDIの2社や、地域防災無線などの無線システムが、細切れに混在している状態だという。周波数の幅が狭ければ小さなデータしか取り扱えないため、通信速度が遅くなるなど効率が悪かった。
また、混線が起きやすいほか、国際規格にも整合しておらず、そのまま海外で使用できないといった不都合が生じていたという。そこで同省と携帯各社は15年から、より効率よく快適に利用できるよう周波数の〝区画整理〟を進めてきた。
再編には大きなメリットがある。細切れだった周波数をNTTドコモとKDDIに15メガヘルツのブロックをそれぞれ2つずつ割り当て、800メガヘルツ帯内に集約することで、900メガヘルツ帯に大きな空白地帯ができることだ。波長の長い900メガヘルツ帯の周波数はビル陰や山間部でも電波が届きやすいため「プラチナバンド」と呼ばれる。
再編後の24年7月末から使用可能となり、新たに携帯電話や物流管理に使われる電子タグなどに割り当てられる予定だという。割り当て内容については同省が検討中だが、少しでも多くの周波数を確保したい携帯各社からすれば、のどから手が出るほど欲しい。同省は「年内には割り当て方針を決めたい」と話す。
■機種変更に向け優遇措置も
7月末をもって使用できなくなる該当機種は主に「第2世代」と呼ばれる携帯電話で、現在主流となっている「第3世代」の1世代前の機種だ。ほとんどの第3世代携帯電話は古い周波数にも新しい周波数にも対応しているため、継続して利用できる。だがKDDIでは第3世代の「CDMA 1X」シリーズのほか、現在主流の「CDMA WIN」シリーズでも一部機種は古い周波数にしか対応していない。
KDDIによると、24年7月末で使えなくなるauの携帯電話契約者数は約500万件。同社は21年4月時点で「周波数再編に伴うサービス終了のお知らせ」をホームページ(HP)や店頭に掲載し、該当者には個別にダイレクトメールを送付。同月15日からは、該当する一部携帯電話の利用者に対し、新しい周波数に対応した機種へ変更する際の手数料2100円を無料とするなどの優遇措置を開始した。
一方、NTTドコモは24年3月末に第2世代の「mova」の終了が決まっており、22年末時点での該当契約数は約163万件。大半の加入者はすでに、第3世代の「FOMA」に移行しており、それほどの混乱はないという。
こうした古い機種の利用者は高齢者が多い。〝おばあちゃんの原宿〟として知られる東京・巣鴨に店舗を構えるauショップ巣鴨店では「昨年から問い合わせは何件かきている」といい、店頭にもダイレクトメールを手に持った高齢者が機種変更に訪れている。
総務省の担当者は「携帯電話はどんどん進化している。スマートフォンなどパソコンに近い機能を持った多機能携帯が人気で、データ通信量が急速に増えた。より多くの電波が必要になっている」と指摘する。
KDDIコンシューマ事業企画部の前田大輔担当部長も「利用者に負担を求めるのは心苦しいが、限られた周波数の中で、利便性を高めて快適に利用してもらうためにはやむを得ない」と話した上で、「さらなる優遇措置も今後検討していくので、新機種への変更に協力してほしい」と強調した。(田中佐和)
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