公開当時、映画館に通って10回以上観た、唯一の映画です。
兎に角、深作監督のスピード感あふれる演出が最高です。
何度観ても飽きないので、印象に残ったシーンは、ほぼ全部ですね。
でも、それじゃ回答にならないので、ひとつだけ挙げれば、ラスト近くで(階段落ちの直前)、ヤスと小夏がうまくいかなくなって、ヤスが部屋で暴れて、小夏が泣きながらお腹の子をかばって、その後ヤスが黙って家を出て行くシーン。
ヤスが出て行ったドアを見つめて小夏がポツリと「やっぱり、あたしたち、ダメだったの?」と言うあたりは泣けますね。
あともうひとつ(笑)、ヤスと結婚することを決めて銀ちゃんを完全に忘れようとした小夏が、銀ちゃんのいない部屋を大掃除して、お風呂もきれいに洗って、その湯船に浸かってさめざめと泣くシーン。
ラストシーンについてはいろんな解釈があるのかも知れません。深作監督の製作日誌みたいなものが残っていれば、それに書いてあるかも知れません。
私は、蒲田行進曲というタイトル通り、映画というフィクションの世界から一瞬にして現実の世界に戻ってしまう、ということを表現したのかな、と思っていました。
ご存知かと思いますが、あれは元々、松竹の蒲田撮影所を舞台にした映画人(昔は活動屋と言ってました)の泣き笑いがテーマですが、実際にあれを撮影したのは松竹ではなく東映の太秦です。松竹配給の映画なのに東映の撮影所を使って撮影したのです(もちろん全部ではありませんよ)。でもこれってすごいことでしょう?
TBSの緑山スタジオでフジ系の「笑っていいとも」を収録するようなものです。
その埋め合わせのつもりか、東映の看板スターだった千葉真一さん、真田広之さん、志穂美悦子さんたちを撮影場面という形でカッコ良く描いてますよね。
つまり『映画人はいいものをつくるためなら、会社の違いなんか関係なしに協力するんですよ、そして、こんなに多くの人たちによってこの映画が作られたんです。みなさん惜しみない拍手をお願いします』っていうことなんじゃないでしょうか?
監督役の蟹江敬三さんと銀ちゃんが作りかけの階段セットのところで、階段落ちをやるかやらないかで言い争いになったときに、蟹江さんが「これは俺の映画だ!」と怒鳴るシーンがあったでしょ?
映画の世界では結局、完成した映画は監督のもの、という考え方があったんでしょうね?
でも深作監督はあの映画を、大道具さん、床山さんなどスタッフを含めて、映画にかかわった人全員のもの、と考えてあのようなエンディングにしたのではないでしょうか?
あと、私は映画版の風間杜夫、平田満、松坂慶子、しか知らないのですが、この映画版が一番良いような気がしてます。
また、DVDを観たくなりました。
ちなみに、蒲田行進曲公開直後、山田洋次監督ら松竹系の人たちから「あれは蒲田行進曲じゃないよ、僕たちが本当の蒲田行進曲を作らなくちゃいけないんじゃないか?」という提案が出されて「キネマの天地」という映画が作られています。
こちらは本当に、松竹蒲田の映画、という感じです。もちろん蒲田撮影所はとっくになくなってましたから、撮影は主に大船撮影所がつかわれたのだろうと思いますが、こちらもけっこう面白かったです。
昭和10年頃が舞台で、小津安二郎監督(映画では小倉監督)なども出てきて、色合いというか空気感が「三丁目の夕日」とちょっと似ています。
是非こちらもご覧になることをお薦めします。
お礼
ありがとうございます!本当に参考になりました。 当時の映画人達の意識の高さに敬服しております。 この映画ひとつで、各キャストや深作監督が携った作品を見てみたくなりました。 これまで、平田満さんは冷静な役が多い俳優というイメージがありましたがあんなに愚直な役も演じてらしたんですね。 不思議な俳優さんだと思います。 今年はこの作品を原点にして、いろいろな映画を見ようと思いました。