ニューヨークから失礼します。 日本は相も変わらずそんな状況なのですね。昔から、心ある方がたが話しをされてきた通り、日本の結婚式における”黒の略礼服”は世界の非常識の最たるものです。欧米の人たちから見ると、これは、とある大安の日曜日の、午後早い時間の帝国ホテルのロビーにおいての欧米人の会話。”今から、オーケストラの演奏でもあるのか?”はまだいい方で、”ヤクザの集会だ”と顔を青くする人まで現われる始末。 しかも、お目出度い結婚式に来た黒の略礼
服、まったく同じ服を 葬式でも着る(もちろんその逆の順番も非礼極まることに変わりはなし。)などという非礼をいつまでやっているのでしょうか。
日本には、日本の独自の洋服の着方がある、などと言う人が今だに後を絶ちませんが、ならば、他人の文化を勝手な了見で解釈せず、自分の伝統、文化を尊重して着物を着て結婚式に出ろと言いたい。
もし現在、過去に何かのはずみ、間違いがあって、西洋の人たちが日本の着物を普段から着ていたとして、それについて彼らが勝手な理屈をこじつけて、しかも”これが正しい着物の着方だ”とか言い張って、日本人から見て、滅茶苦茶な着方をしていたら、はたして日本人はそれを見過ごしたり、許したりするでしょうか。 (つい最近も、松岡という農林大臣が、海外での日本食のレストランについて、日本政府発行の認可状を出すとか、出さないとか言って、当地では大きな話題になっていましたが。)
黒の略礼服については、百歩譲って、不祝儀の際に着ることについてはこれを認めるのにやぶさかではありませんが、これだけ国際化した時代に、今だに結婚式に黒の略礼服というのは、国際認識の欠如もはなはだしい。 最近は、日本でも、(日本人にはおしゃれに見えるのでしょうが)ちんけな西洋館というか、西洋屋敷にての結婚式やパーティーが
盛んになってきているようですが、それによって黒の略礼服は、場にそぐわないものである、ということがようやく理解されつつあるようですが、まだまだこの服を祝いの場から消しさるには、数百年はかかるのではないでしょうか。
私は、服飾の専門家として、これまで何百回と講演などにてお話をしてきましたが、黒の略礼服は、現在のカインドウエアという礼服専門のアパレル会社が、戦後すぐの時代、つまり日本がどん底の時代、国民みな超貧乏の時代に、ある種の妥協の商品として売り出し、25年くらい前までに、特に日本の稲作農家を中心とした地方社会において定着していったものなのです。(実は、戦前の日本では、男性はほとんどが、紋付袴などの着物姿で、黒の背広型の服などかなりとんでもないものであったのでした。)
そのような意味では、英語で言えばPrincipleという、つまり何が正しく、何が間違っているのか、という原理、原則にまったく固執することなく、みんながOKならばそれでよし、という日本型不和雷同の文化の典型的な産物と言えるでしょうか。 もしくは、悪い意味での、日本的な”和”の文化の代表的な産物と言い換えてもいいでしょうか。これまで、心ある服飾の専門家の方たちが口をすっぱくして説明をしてきても、この略礼服については、日本の社会の底辺は微動だにしませんでした。なぜか、日本においては、医者や弁護士などの言うことには 耳を傾けるようですが、洋服屋の言うことには耳を傾けないようですが、
服装が正しいか、正しくないか、商品の質が高いかどうかなどの判断をするのは、プロの洋服屋の仕事であって、顧客や消費者の判断することではないのです。 顧客や消費者が判断すべきことは、”好き”か”嫌い”か、これだけです。
前置きが長くなりましたが、ダブルのブレザーに、グレーのパンツ。
これで結婚式に出向くことは、国際的なドレスコードからすると、
まったく正しいです。(但し、同じエーボンハウス製ならば15年前くらいのものであれば、もっと良かった。この会社は、かつてバブルの時代に不必要な不動産投資で、会社を一度潰してしまい、以降 昔の品質を取り戻すことはありませんでした。)もし、このスタイルで出席されるのであれば、シャツは、ミディアムスプレッドの白ブロード無地で、フレンチカフスのものに、ネイビーのピンドットタイ。カフリンクスはスターリング シルバーのシンプルなもの。パンツのグレーがどんなグレーかわかりませんが、あまり逆に濃すぎない方がいい。 細かい千鳥格子のパンツがあれば、それでも良し。それに麻のポケットスクエアを
スリーピークか、フォーピークで挿し、黒のドレスタッセルを、もしくは日本で言うストレートチップ(正しくはキャップトウ オックスフォード)をピカピカに磨けば、世界中どこへ行っても受け入れられるお目出度い席用のフォーマルウエアの一丁上がり。
最後に、予算が許せば、黒の略礼服はお葬式用にお求めになられておくと良し。こればかりは いつ何時必要となるか、わかりませんから。
かつて、昔の日本では、もっともスピリチュアルな色ということで、
お葬式の際は、みんな白を着ていた時代があるのですが、ご存知ですか。棺おけに入っている人は、ほとんど白の着物を着ていましたよね。
凡人とそうでない人を分けるのは、凡人、つまり大衆の常識を疑うこと
もせずにいるかどうか、にあると言えます。 また、19世紀のプロシアの宰相ビスマルクは、こう言っています。”経験からしか勉強をしないものは愚か者である。賢者は歴史から勉強する。”これからすると、
日本人は間違いなく前者です。
最後に、結婚式に何を着ていくにしても、つまりダブルのブレザーであっても、そうでなくても、最後は必ず自分で判断し、決めること。
ポイントは、友人の人生の門出に際し、自分のお祝いの気持ちを一番素直に表現出来る服は何なのか、ということに尽きます。
そうした気持ちを服によって、表現することを”装う”というのです。
もう一つ、かつてエイボンハウスが全盛の時代、1982,3年頃に、
”炎のランナー”という、英国の陸上競技のオリンピック選手を題材にした映画を、エイボンハウスがサポートしたことがあります。 正直
名画と言っていい映画ですが、この映画の中に、素晴らしいブレザーの
フォーマルな着こなしがちりばめられています。ぜひご覧ください。
お礼
たいへん詳しい内容のご回答、ありがとうございました。 私も、結婚式とお葬式に同じ服を着ていくということに、違和感を感じていたのです。 でも、日本の「常識的な意見」はそうではないようですね。 あと、(同じ服を着ていけば)面倒でないという考えも、なにか不誠実な気がして・・・ 大切な友人の結婚式なので。 もちろん、結婚式に形式的に出席する機会が増えるようになれば、そう感じるようになるのでしょうね。 結論ですが、 友人に一度聞いてみます。どんな服で出たらよさそうか。 そのうえで、 ブレザーでも良いとなれば、kenaoki様から頂いたアドバイスに従い、服装を整えようと思います。 礼服でとなれば、新調することにします。 礼服が嫌だったのは、無難でおじさん臭い格好というイメージが自分にはあったからですが、 インターネットでいろいろ見たところ、デザインが悪くないものもあることを知りました。 皆様ほんとうにご意見ありがとうございました。 PS kenaoki様のブレザーの着こなしに関するアドバイスは、今回結婚式に着ていくことがなくても、 活用させていただくつもりです。