外国料理を好んで作ります。基準は、レシピどおりに1度作ってみて、現地に行って本場の味を盗み、帰ってきたらアップデートするというパターンです。
このパターンで一番成功したのは、グルジア風チキンです。ロシア料理の本にグルジア・チキンのレシピが載っていたので、まずそれを参考に作ってみました。グルジアは日本と並ぶ長寿国ですが、調理の手法が沖縄料理に似ていることに、まず気がつきました。沖縄では豚肉を多量に食べますが、お湯で長い間かけてゆで、油を抜いてしまいます。グルジアも同じで、鶏肉を40分もゆでるのですから、普通の大和民族の感覚からすれば、明らかにゆですぎで固めです。しかも、グルジア人は皮をはいでしまうので、鶏肉のカロリーを減らしたうえ、体に悪い飽和脂肪酸を激減させてしまうのです。
そして、ここから先が、沖縄人も思いつかない技を使います。油を落としてしまったので味にコクがなくなります。そこに、クルミをすりつぶしたものを中心とするソースをかけることで、コクを復活させるのです。無論、クルミですから、身体に良い不飽和脂肪酸のほうでしょう。このクルミソースには複雑なスパイスが入っており、レシピどおりにやってみると、そこそこのものが出来上がりました。レシピでは、薄切りにした生のマッシュルーム、エリンギ、エンダイブの上に鶏肉をおき、上からクルミソースをかけていました。このクルミ作戦、おそらくは、東方正教会のキリスト教に食のタブーがあって、水曜と土曜はオリーブ油を食べてはならないというルールがあった時代に、オリーブ油に代わるものとして発明したものだと思います。食べてみて、かなり旨かったです。
そして現地に旅行に行くと、似てはいるものの、少し違うバージョンのものを次々と見かけました。もも肉を使う場合は、レシピと同じような感じなのですが、エンダイブをしくのではなく、オレガノとコリアンダーをクルミソースの上からちらすという手法のものがありました。つまりこれ、和食を初めとする東アジア料理でいうところの、薬味の概念がグルジアにはあることが分かったのです。また、胸肉を使う場合はバンバンジーのように細く割き、スライスしたトマトの上に乗せて、ソースと薬味をかけるという方式でした。使う素材は全然ちがうのに、調理の手法はまさにバンバンジーなのです。
結局、エンダイブをしくというパターンは1度も見ませんでしたので、おそらくロシア人は、グルジア料理を作る時も、東アジア式のように薬味を上からちらすという習慣は取り入れなかったのだということが分かりました。クルミソースの味は、レシピと少し違いましたが、外国系スパイスの利用経験があれば、違いを把握することは難しくないはずです。とにかく、薬味はコリアンダーの出番が多いという国で、これはロシア人には受容されていないようです。もともと、コリアンダーは地中海の食べ物ですから、ロシア人に縁の近い食材ではないのでしょう。
帰国後、自宅で作ると、ほぼ現地の味を再現できました。有名なロシア料理店で注文してみたのですが、期待はずれのもので、あれなら私のほうが、よほど旨く作れると断言できます。
グルジアは今まで旅してきた20か国の中で、一番、印象深い国であり、いずれまた、行ってみたいものだと思います。マイナー系の国なのに、異様に文化水準が高いのです。食文化だけでも、すでに感嘆ものであるほか、音楽のレベルが高いことでも有名です。なにしろストラビンスキーがグルジア音楽こそが世界一だと言い、グルジア合唱はユネスコの世界無形遺産なのです。