あまり数多くはないようですが、レコーディングのみに焦点を絞ってライブを行わない音楽家もいますね。私も自分で音楽を作っていますが、ライブの意義について疑ったことがありました。よく「オーディエンスとの一体感がライブの醍醐味です」みたいな物言いを耳にすることがあります。分かりやすいのは、ロックバンドがステージの上から「イエーッ」と叫ぶと、お客さんから「イエーッ」と返ってきたりします。(^_^; 「意味ねえよなあ」「予定調和だよなあ」などと違和感を持っていました。CDならば音だけの世界ですが、ライブとなると視覚的要素をはじめとして音楽以外のファクターが数多く絡んでくるものです。音楽以外のものをできるだけ削ぎ落としたいと思い、「演奏さえきちんと届けば、緞帳(どんちょう)を降ろしたままでもいい」などと偏狭なことを言っていたこともありました。
長々と私的な話を書いてしまったのは、ご質問の文から同じようなニュアンスを感じたからですが、私の思い過ごしでしょうか。しかし考えてみると、音楽を録音していつでもどこでも聴けるようにするというのはエジソンの蓄音機以降のことで、それ以前の長い歴史においては、音楽はそのときその場所で演奏されなければ聴くことができないものだったわけです。つまりライブこそが音楽を表現する唯一の形だったということになります。現代のようにCDや音楽配信などが広く普及し、また、その音質も向上してくると、家でも聴けるものをわざわざ出かけていって聴くことに値打ちがあるのか、という気になりがちですが、歴史的に見れば、音楽をレコードやCDというメディアに残す行為のほうがむしろ特殊なのです。