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時効の援用権者 その2
- 時効の完成と時効の援用を切り離し、完成については、被担保債務と抵当権は同時でなければ時効の完成はしないが、援用は私的自治により個々の利害関係者に任せればよいということではないのでしょうか?
- 絶対効とすると396条に反することになるので、絶対効になるということでよいのではないでしょうか?
- 物上保証人は債務者ではないが、債務者による承認が時効を中断するとして、それが物上保証人にとってもその効力が及ぶか否かは関係ないと思われます。連帯の特約や担保権の設定のある場合は、一定の制約が働き絶対効が働くのではないでしょうか?
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>1.まず、時効の完成というときには、時効の要件を満たしたということであって援用までを含んでいないのではないでしょうか? ご説のとおりである。「時効の完成」とは、援用以外の時効の要件を満たすことを言う。「時効の完成」には当事者の援用は必要ではない。 「時効は、当事者が援用しなければ、裁判所がこれによって裁判をすることができない」(145条)というなだけであって。 つぎに、説明の便宜から、3.の質問に答える。 > 上記場合も、148条は相対効が原則ですが、396条により修正されるのではないでしょうか? まず、昨日ははしょった説明をしてしまい、混乱させてしまってもうしわけない。昨日のことは一度忘れてくれ。最初から順を追って説明する。 まず、物上保証はおいとおいて、保証の方から入らせてもらうが、 確かに、148条にかぎらず、契約は原則相対効であると思ってもらってかまわない。(契約相対効の原則)。 それは、そうじゃろう。例えば保証契約(連帯保証を含む)により、保証人が負う債務は、「保証債務」であり、「主債務」ではない。 保証人が負う「保証債務」は、主債務と異なる独立した債務であるから、主債務に生じた事由があっても、保証債務には影響を及ぼさないのは、当然であり、むしろ絶対効などあるほうがおかしい。 しかし、それではちと債権者がかわいそうである。法はこの原則に、絶対効の例外をいくつかおいた。 ↓↓ (主たる債務者について生じた事由の効力) 第四百五十七条 主たる債務者に対する履行の請求その他の事由による時効の中断は、保証人に対しても、その効力を生ずる。 2 保証人は、主たる債務者の債権による相殺をもって債権者に対抗することができる。 ↑↑ この条文が例外である。 ここには、「 (主たる債務者について生じた事由の効力)」 として、(1)「履行の請求」(2)「その他の事由による時効の中断(請求以外の時効中断事由=債務の承認など)」が例外的に絶対効とされている。すると、457条1項にはっきり書いてあるじゃろ、主債務者に生じた「その他の事由による時効の中断(請求以外の時効中断事由=債務の承認など)」は絶対効である。よって、主債務者の時効中断は保証人にも影響がある。保証人の絶対効は457条が根拠である。 >2.相対効とすると396条に反することになるので、絶対効になるということでよいのではないでしょうか? それは少し違う。物上保証人は、456条のような明確な条文がない。だから、396条が絶対効の根拠になると思っているのじゃろう。しかし、全部間違いとはいわないまでも、やや誤りである。 まず、ここで思いとどめなければならない大前提は、「物上保証人と債権者には債権債務関係は存在しない。」ということである。 例えば、債権者が、物上保証人のところに行って「債務者が金を払ってくれないから、あなたが変わりに払ってください」と「履行の請求を」してきても、物上保証人は「確かに私は物上保証人になりました。だから、最後に自分の土地が強制執行にかけられてしまうことは受忍しなければならない立場です。しかし、貴方に直接債務を負っているわけではありません。よって、貴方の履行の請求に応じる義務はありません。直ちにお帰りください。」と債権者を追い返せる。つまり、債権者が物上保証人に「履行の請求」をするということは、ありえない。債務のない者に「履行を請求」すること自体が矛盾である。また、逆に「債務の承認」にしても同様である。物上保証人には債務がない。だから物上保証人の「債務の承認」などありえない。 一方、保証契約の場合、主債務に生じた事由は、保証債務に生じるとか、生じないとか、相対効だとか、絶対効だとかいう問題があった。それは、保証人が「保証債務」という主債務という矢印とは、まったく独立した別の矢印、「保証債務」というものを負っていたことから生じる問題である。それぞれ別の矢印が向いていたのだから、原則として一本の矢印に何が生じてももう一本には影響がないのが原則なのに、例外的に、法は457条で一本の矢印に生じた事由は、もう一本の矢印にも例外的に生じるとした。しかし、物上保証の場合、矢印は主債務者に向けられている被担保債権の矢印一本だから、相対とか絶対とかの問題は生じない。そんな説明をする教科書はみたことがない。 だから、主債務者に対する「履行の請求」「債務の承認」がなされれば、被担保債権の時効の中断は生じるが、それ以上の効果はもたらさない。 しかし、その一本の矢印は、主債務者と同時に、物上保証人が提供した担保にも向けられているのである。だから、被担保債権が債務者の承認により、時効の中断がなされれば、抵当権も396条の効果により、間接的に物上保証人にも「時効の中断のような効果」が生じ、「絶対効に近いような事実上の効果」が生じる。 物上保証人に生じる上の効果を、保証債務のみに使われる概念である「絶対効・相対効」と呼ぶのはかなり不適切である。しかし、あえてわかりやすくするためにこの用語を使うとすると。 物上保証人は債務はないが、主債務者と一心同体となって、被担保債権(主債務)に矢印をむけらている存在である。よって、被担保債権が中断すれば当然に物上保証人に事実上の影響がある。そういう意味では「絶対効」と呼ばざるえない。それは、396条が根拠というわけではなく、物上保証人は債務者と一心同体となって、そもそも非担保債権そのものに矢印をむけられているからという本質的な物上保証人の性格に起因する。
お礼
回答ありがとうございます。 制度間の位置づけ、その利益衡量の精緻さには感銘いたします。 次に「利益衡量と私的自治」としての質問の投稿を考えております。 その際には、ご指導・ご助言のほどお願いいたします。
補足
論理明快な回答ありがとうございます。 保証人と物上保証人の違いがよく分かりました。 その論理展開に感服いたしました。 ところで、保証は人的担保であり、物上保証は物的担保であると聞いております。 そして保証契約では債権者に対して保証人は保証債務を負い、物上保証人は債権者との間に抵 当権設定契約を結び抵当権設定による負担を負います。 両者の契約の内容や保証人、物上保証人の負うべき内容は、それぞれ違いは生じるかもしれま せんが、基本的に両者はパラレルに扱うのが、当事者の意思に合致するのではないかと想像さ ます。 保証人は特約がなければ、検索の抗弁権等がありますが、これも物上保証の場合に強制執行さ れなければ換価・弁済されないということで、パラレルな関係にあるように思えます。 保証契約は特約がなければ、主債務者より先だって弁済することまでは予定していないことは 当事者の合理的意思であり、私的自治なのではないかと思います。 そして、保証契約と代替・補完等の関係にある物上保証を許す限り同程度に扱うことも当事者 の合理的意思であり、私的自治なのではないかと考え初めています。 回答者様の利益衡量には感服いたしますが、実は利益衡量に適うことは当事者の合理的意思の ありどころを見出すアプローチなのではないかと思い初めております。