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仮設住宅、健康を保つには?
東日本大震災で被災し仮設住宅に入っている人が、被災前とは違う生活で体調を崩すケースも多いと聞きます。仮設住宅住まいが健康にどんな影響があるのか、本格的な寒さの到来を前に、気をつけるべきことを教えてください。=匿名
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■エコノミークラス症候群 厚生労働省の17日現在のまとめによると、東日本大震災で建設された仮設住宅で、被災者が入居しているのは岩手、宮城、福島など7県の4万4967戸。避難所や旅館などに避難する人が減り、仮設住宅に移る人が増えている。仮設住宅では、避難所などよりプライバシーの守られた空間を確保できる一方で、孤立し閉じ籠もりがちになることによる心身の健康への懸念も出てくる。 例えばエコノミークラス症候群だ。宮城県石巻市の石巻赤十字病院が、市内の仮設住宅の190人に対し8月下旬に行った検査で、7%の13人が足の静脈に血栓があり、エコノミークラス症候群の一種「深部静脈血栓症」であることが分かった。血栓が流れて肺静脈を詰まらせると死に至ることもある病気だ。 検査をした植田信策医師(呼吸器外科)は、「仕事のないお年寄りらが狭い仮設住宅で座ったままじっとしていると、血液の流れが悪くなり足に血栓ができやすくなる」と原因を分析する。動かなければ年齢を問わずかかるという。 新潟県中越沖地震の際は、仮設住宅に入居後2カ月ほどでエコノミー症候群が増えたというデータもあるといい、植田医師は「今後寒くなればさらに動かなくなる。9~10月にかけて入居した石巻市ではこれからエコノミークラス症候群が増える可能性がある」と警鐘を鳴らす。 仮設住宅内で動かないことで引き起こされるものはほかにもある。筋力が低下し歩けなくなる「生活不活発病」になり、それが原因でエコノミークラス症候群や、菌などがのどから肺に入って起こる「誤(ご)嚥(えん)性肺炎」になることもあるという。また、アルコール依存症や、認知症の悪化も懸念されている。 こうした心身の症状の根底にあるのは、複数の専門科が最も懸念する精神面のダメージだ。兵庫県立大の神崎初美教授(災害・成人看護学)は「一番の問題は孤独による閉じ籠もり」だと指摘する。 仮設住宅には被災前のコミュニティーや避難所の人間関係に関わらずバラバラに入居するケースが多く、「仮設住宅で人間関係をまた一から作り直すことになる。人付き合いの苦手な人にとっては新たな関係を築いていくのが難しい」。 神崎教授によると、阪神大震災の仮設住宅での孤独死のうち、3割がアルコールが原因とみられる肝疾患だったという。神崎教授は「被災して職や生きがいを失った人は、閉じ籠もって過度な飲酒をしたりきちんと栄養を取らず衰弱したりする。仮設住宅は個人のほっとする空間が確保できる一方で、避難所のようにほかの人が症状に気付けないリスクもある」と分析する。 ■役割分担にも効果 では、閉じ籠もりを防ぐにはどうすればよいのか。 宮城県気仙沼市の仮設住宅で24時間態勢の支援活動を行っているNPO法人「阪神高齢者・障害者支援ネットワーク」(神戸市)の黒田裕子理事長は、「住人が出てこられる場と人間関係を季節を問わずつくらなければならない」という。 同法人では、毎朝ラジオ体操を行い、集会場では感染症や高血圧の予防法を紹介するなど集まる場を設けている。同世代、同じ趣味などの共通点から住人同士を引き合わせる「つなぎ役」が、集会場に出てこない人にも気を配る。 一定の役割を分担するのも効果的。班ごとに掃除や住人への声かけ、花壇の世話などの仕事を分担する。顔を合わせれば互いの健康状態も分かり、当番に出てこない人の安否確認にも役立つという。 また、共通の話題である仮設住宅の住み心地や問題点を話し合うことも「コミュニティーづくりのきっかけになる」というのは、仮設住宅の改造例をインターネット上などで紹介している新潟大の岩佐明彦准教授(建築計画学)だ。 防寒対策に窓に荷造り用のエアキャップを張る、冷気の伝わる壁には布を掛けるなどの工夫が共有でき、「仮設住宅の問題点が住民の間でまとまっていれば、行政も対応しやすい」というメリットもあるという。 植田医師は「家の中に閉じ籠もらず、普通の活動を取り戻すことが大切」と話す。冬はただでさえ室内にこもりがちだが、健康を保つには意識して人付き合いをし、外出することが必要のようだ。(高橋裕子)