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瑕疵担保責任の信頼利益
こんにちは。民法の瑕疵担保責任の損害賠償の範囲が信頼利益だといわれていますが、いまいちよくわかりません。 以下の事例の場合、どのようになるのか教えていただきたいです。 土地の瑕疵担保が認められたとしまして、以下の事実は損害賠償の範囲に入りますか? ・土地の上にすぐに建物が建てられる予定だったのに、土地の瑕疵修補工事のため延期したので、延期する分の現状賃貸物件の家賃及び更新料 ・すぐに建てられた場合、ローン減税が受けられたのに、それが受けられなかったことによる利益(150万控除できたのにできなかった。) ・
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ドイツ語を直訳でもしたのでしょうか,「信頼利益」という言葉自体が「不親切」ですよね。 「信頼利益」とは,有効でない契約を有効に成立していると信頼したために生じた損害です(『有斐閣法律用語辞典』第3版より)。対するのが,ご存知のとおり,「履行利益」(契約の有効を前提として契約が履行された場合に債権者が得たであろう利益[前掲書])です。 履行利益は,本来それが得られたはずなのに,債務者の帰責事由により得られなかった利益について認められ,信頼利益は,債務者の行為のいかんにかかわらず契約目的の完全な達成は不可能であった(たとえば,特定物に契約前から瑕疵がある場合)が,公平の観点から債務者に負担させるものだと,私は理解しています。 瑕疵担保責任は,有償契約の対価的均衡を図るための法定責任ですが,それによる損害賠償も,債務不履行(415条)や不法行為(709条)に基づくそれと同様に,損害があり,かつ,原因(ここでは瑕疵)とその損害との間に,通常生ずべき損害といえる関係があること(416条:相当因果関係)が必要です。信頼利益は,原因と相当因果関係にある損害のうち,どこまで損害賠償をすべきかという範囲の問題です。 問1 土地の上にすぐに建物が建てられる予定だったのに、土地の瑕疵修補工事のため延期したので、延期する分の現状賃貸物件の家賃及び更新料 まず,請負の瑕疵担保責任ではなく,特定物の瑕疵担保責任(570条,566条)を考えます。 (1)まず,延期する分の家賃等が「損害」といえるでしょうか? 実際に負担するのだから,損害といえるでしょう。 (2)なら,瑕疵と因果関係があるでしょうか? まず,瑕疵がなければ新築の建物に住んで,賃料等を負担しなくてよかったのだから,条件関係(「AなければBなし」といえる関係)はあります。 そして,一般人から見て,新築の建物に住めない場合にそれまで住んでいた借家に住むのは相当だから,通常生ずべき損害といえるでしょう。 (3)では,信頼利益に含まれるでしょうか 上記の定義から見て,履行利益には含まれても,信頼利益には含まれないでしょう。契約が有効であると信頼して支出した費用じゃないですよね。契約による支出があることによって,損害賠償により公平を図る必要が出てきます。 契約前に土地の瑕疵があった以上,もともと契約上の履行期から新築の家に住むのは無理だったのであり,家賃は当然なすべき負担に過ぎません。よって,損害賠償を認めなくても,実質的にも不公平は生じません。 次に,請負の担保責任を考えます。 本件契約が,履行期までに,建物を建築可能なように整地の上,建物を建築して引き渡すという請負契約(632条以下)であれば,土地の瑕疵をなくすことも請負契約の内容なのだから,土地の瑕疵により建物の引渡しが遅れることは,債務不履行になります。このように,請負の担保責任は,債務不履行の特則規定(:無過失責任という意味で)であり,履行利益まで請求できます。 とすれば,本件損害は,履行利益として請求可能です。 問2 すぐに建てられた場合、ローン減税が受けられたのに、それが受けられなかったことによる利益(150万控除できたのにできなかった。) 問1と同じように,ご自分で検討してみてください。 ここでは,問1と異なり,そもそも「通常の損害」といえるかが問題となります。ローン減税は,新築により建物を取得する者にとっては,社会一般に重要な関心事であり,債務者(請負人)もそのことを予見できた(416条2項)といえると考えれば,履行利益に含まれることになるでしょう。 結局,問1,問2とも,特定物の瑕疵担保責任としては信頼利益を認めるべきではなく,また,認めなくとも不公平とはいえないのではないでしょうか。
お礼
大変わかりやすい回答をありがとうございます。 信頼利益と、履行利益の違いが明確にわかりました。 具体的な事例にも答えて下さりありがとうございます。 今後、自分の頭で考えることができるようになりました。 大変感謝です。