劇場版「機動警察パトレイバー」の第1作目(2作目以降はダメ)。10年以上前に非常に高い評価を受けた作品で、今でも根強いファンがいます。
ロボットものとしては異例の現実性の高さが売り物。工事現場でレイバーと呼ばれるロボットが使われている時代に、レイバーを利用した暴力的犯罪に対処するため、警察がレイバー部隊を作って対応するという設定。未来の話ではなく、20世紀末の話です。古すぎ、ということはないと思います。
主人公が乗り込むレイバーですが、これがもろに警察のデザインで、黒と白のツートンカラー、胸には桜の代紋、肩には赤色回転灯があります。パトカーのマネです。
戦闘シーンも悪くありませんが、どちらかというと人間ドラマとしての性格が強い作品です。マッドエンジニアがレイバー用OSにとんでもない仕掛けを設定して自殺、彼の意図は何であったのか、彼が破壊したがっていた東京とは何なのかが重たいテーマとして基調をなしています。主人公の若手婦警である泉野明(いずみ・のあ、と読みます)は警察用レイバーのパイロットであり、仲間たち若者とのチームワークや、それを裏で支える中年上司たちの地道な犯罪捜査も見逃せません。中年と若者の共同作業というテーマは、劇場版だけでなく、漫画版でも重要な要素です。犯罪捜査の過程で描かれる古い東京の景色は、異様にまで描きこみが細かく、美しいものになっています。野明が、自分の愛機も新OSで暴走する危険性があるのかと言って泣き出したり、上司の後藤が警察内部の人脈を生かして犯罪捜査の状況を把握していたり、見所は多数あります。
おりしも若者たちがマッドエンジニアの意図を解明した時、巨大台風が関東を直撃、上司の後藤は警察幹部との会議で、「この際、すべて台風の仕業ということにしてしまいましょう」とのべ、若者たちによる「方舟」と呼ばれる海上建築物の破壊にGoサインを出すのです。ノアが方舟を破壊しに行くというテーマは露骨に世紀末的ですが、現実性の高い作品であること、主人公はロボットではなく人間であることには変わりありません。
最後は未発売の新型レイバー「零式」が暴走をはじめ、野明は必死で、古いレイバーで戦います。
なお、漫画版ですが、これも優れた作品です。少年誌に連載されたものとしては極めて異例の、チャイルドポルノと子供の人身売買という重たいテーマが、物語の中ごろから、鮮明になってきます。野明は新型レイバーの格好よさにほれ込んだり、チャイルドポルノの世界に泣いたり怒り狂ったり、同僚との関係が気まずくなって疲れたり、酒によって大笑いしたり、ブラジャーを後藤からのプレゼントと勘違いしたりします。話があちこちで横道にそれるのですが、最後は特別なOSとハードウェア設計で出来たライバルの強敵ロボット「グリフォン」を無理やり押さえ込んで勝利。後藤から教えられた「警察の仕事は、本質的に犯罪が発生してからの後片付けである。犯罪予防ということを重視しすぎると、国民生活の自由が維持できなくなる」という言葉の意味の深さを理解するとともに、人身売買されたグリフォンのパイロットの発言に激しく脱力しながらも、TVのインタビューでは力強く「自分としての仕事は果たした」と言いきっています。
エンターテイメントとしての水準は非常に高く、重たいテーマを扱いつつも決して根暗ではありません。エヴァあたりと比べたら、よほどとっつき易いでしょう。
お礼
詳しくありがとうございます。 名前だけ聞いたことあるのですが、チェックしてみたいと思います。